桜鱸~破~

桜を散らす雨が降った。

新たな出逢いを連想させる花の頼りを合図に、再びその場所で彼と会った。


2人とも学生だった時には、1週間の内、10回でも11回でも釣りに繰り出した彼だ。

一足先に卒業していった彼は、社会人として1年を過ごし、一段と男前になった。

反面、もちろんわかりきっていたことではあるんだが、一緒に釣りができる回数は月に2,3回くらいになっただろうか。

釣り場も限られてきた鳥取市のエリア内で、2人の間で「1本」の感触から遠ざかっていたのも事実だった。

私も社会人となり、ますます釣行回数が減るだろう。ましてや一緒に立てる回数なんか、もっと減るのは明白だ。

雨を見ながらそんな事を考えていたんだ。

何か起こんのは決まってそんなタイミングだ。


後から彼が合流した。

今日、間違いないだろう。釣ってくれよ。

無言でそれを示す。場所を開ける。

彼もまた、何も言わない。

それでいい。そうであってくれたら嬉しい。

暗闇の中で車が走り去る音がしているのだろうが、その音は風景に溶け込み知覚の外の音となる。静寂の中で、ピシッ とロッドを振りぬく音だけが響く。

時折、救急車のサイレンがどこか遠くから聞こえてくる。

   

そして水面に流れる桜の花びらは、「その一瞬」を、極めて冷静に、そして極めて端的に語ってくれた。


・・・来る。

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