一瞬たりとも静止をすることはないその物質は刻一刻と変化を続けていた。
全ての運動は宇宙誕生レベルやそれ以前に既に決まっているなんて話もあるが、今夜は前日の雨の影響を受け、下げの流れがいつもよりも格段に効いている。
水面の桜はその流れの筋を視覚的に教えてくれる。
リトリーブで流れの強弱を、とかは修行中だ。掴みかけてはまた分からなくなるの繰り返しだ。全て把握できるなんてとても言えない。が、今夜に限ってはそれが分かる。ありがたい。
にわかに手前の桜がとまった。明らかに違う。そして徐々に本流の流れも緩くなる。
集中力を研ぎすます。
そんな時、魚を引っ張って来るのはいつも彼だ。
ゴバゴバッと重量感のある音を聞き、魚は水面を割った。視界の端にそれを捉えた私はすぐに彼のもとへと駆けつける。久しぶりの感触だからだろうか。少しファイトが硬い。
が、獲れないとは思わない。彼は獲る。
ゆっくりゆっくり寄せ、落ち着いたのを確認してから、極力慎重にグリップを撃つ。
痺れるランカーシーバスの登場だ。
ハイタッチをする。いつぶりだろうか。こうして喜びを分かち合えるのは。
いい出逢いだった…。さぁ帰るか。新年度、頑張ろうで。
「じゃーな!!」そう言って彼は、車へと戻っていった。
帰れない!
口では帰るか、と言っているのに、
帰れない。
まだだ。あと1つだけ知りたい。
なぜ彼は、釣れたのか。「来る」と直感したタイミングで、なぜ釣れたのか。
その答えのヒントがほしい。あと5回だけ撃って帰ろう。
計測からリリースまでを終え、川は既に下げの流れが効き始めている。
もう一度だけでいい。止まってくれと願うと、不思議とすぐに桜が止まったではないか!
数投で帰ろう。落ち着いて、できる事をやる。
あそこに撃ってこれくらい糸を張ってあそこに流しこんで…。
来た!!
数m巻き上げ、ラインテンションをかけ、向こうに走ろう走ろうしている状態になったところで、スマホを取り出す。自分がジリジリ後退しながらテンションを保ち、
「カムバック」とだけ打ってから魚を寄せにかかる!
まだ居てくれ!
そしてちょうどシーバスが足元まで寄って来たところで、彼の声が聞こえ、安心感に身体とグリップを預け、その口にグリップを挿れてもらい、「何か」から開放されたような気持ちになった。
嬉しい。
以前は釣れるだけでもう最高に嬉しかったのに、最近は「嬉しい」のベクトルが変わってきた。
釣ってもらいたい。
一緒に釣りたい。
なんで釣れそうに思えたのかを知りたい。
釣れるという気持ちの、答え合わせをしたい。
たい、たい、たい…。たいたいだらけのことがたくさんあって、今日はやっと、でき「た」に変わった。
だから嬉しい。
嬉しいんだ。
さて。どうして流れが「少しの間止まった」ように見えたのか。今回は下げの潮。それプラス河川の増水ということだが、このフィールドでは河口部で釣りをしていると、下げの潮でも上げの流れが起こるのはよく起こる現象だ。知人に話を聞くと、その要因の1つは沖の方で荒れたことじゃ無いか?とのこと。確認してみると、エントリー前に沖の方で確かに荒れている。
そして、流れが「止まった」ように見えたのは、もしかしたら沖の影響で河口部に入って来た海水が、河川の流れと打ち消しあう箇所が、たまたま自分が釣りをしていたところに当たったんじゃないかとの指摘もあった。そう考えると、河川の増水により押し流されたベイトと、海から上がってきたベイトがたまり、シーバスの活性がにわかに上がったのも頷ける。
ただ、これはあくまでも仮説。日本海側の干満や河口部の流れの動き、特に、下げの時間に川の流れが上げたり下げたりすることについて、詳しい方が居られたらご教示頂けると嬉しいです。
桜の季節が過ぎた。今回は、桜に助けられた。
1つの釣りでいくつもの課題と収穫を得て、また次の釣りへと向かっていく…。
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